認知症の薬物療法

「認知症」の多くを占める「アルツハイマー病」は、治療を受ける時期が早ければ、薬で進行を遅らせることは可能です。 また、中核症状や、ストレス、環境要因などが結びついて起こる「BPSD(行動・心理症状)」が強くなると、 医療機関を受診させるのが難しくなることが多いため、なるべく早期に受診することが大切です。
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■薬物療法

●薬物療法

認知機能障害やBPSDに対して、薬を使うことも

BPSDの症状が強く、他の方法ではなかなか抑えられない場合には、症状に応じて抗精神病薬、抗うつ薬、 抗不安薬、睡眠薬などが使われることがあります。 特に不安や興奮、幻視や妄想などの症状が強い場合には、抗精神薬、漢方薬、その他の薬により、 症状の軽減を図る場合があります。

▼非定型向精神薬
「不安・焦燥」「幻覚」「暴力」「徘徊」などの症状が強い場合に用いられます。 「リスペリドン」「クエチアピン」「オランザピン」などの薬が使われます。 一方で、非定型型向精神薬を使うと転倒しやすくなったり、嚥下障害が低下して「誤嚥性肺炎」を起こしやすくなるなど、 死亡リスクの増加が指摘されています。そのため、少量から、慎重に使われます。 使用期間もできるだけ短くします。

▼漢方薬
非定型型向精神薬と同様の効果を期待して、「漢方薬」が認知症の治療に使われることもあります。 よく使われるのは「抑肝散」という薬です。 幻覚、徘徊、興奮」などの問題行動の軽減に「抑肝散」が使われたり、 脳血管性認知症に「釣藤散」が使われ、一定の効果が認められています。 また、アルツハイマー病では、記憶障害など中核症状の改善に「加味温胆湯」が単独で、 あるいは、塩酸ドネペジルと併せて使われることもあります。 漢方薬の効果には、これまで科学的なデータがありませんでした。 漢方薬の治療も行われ、その効果に期待が寄せられています。

▼抗鬱薬
鬱症状が強い場合に用います。前頭側頭葉変性症の症状を改善するために用いることもあります。 抗鬱薬にはいろいろなタイプがあります。認知症に伴う鬱症状では、「SSRI(選択的セロトニン再取り込阻害薬)」や 「SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込阻害薬)」など、副作用が比較的少ないとされているタイプの薬が よく用いられています。ドネペジルが、鬱症状の改善に効果的な場合もあります。

▼睡眠薬
睡眠を妨げるような明確な原因がないのに、不眠を訴えるような場合に用います。 不安感を和らげるために、作用の良く似た抗不安薬が使われることもあります。 現在、ベンゾジアゼピン系薬と呼ばれる薬が多く用いられています。 しかし、筋肉を弛緩させる作用があるものも多く、高齢者では転倒する危険性などが高まります。 そのため、ベンゾジアゼピン系薬を使う際は、転倒への注意の怠らないようにしてください。

●認知症の薬

▼塩酸ドネペジル
「アルツハイマー病」や「レビー小体病」は、徐々に病気が進行し、症状の程度がひどくなったり、 症状が増えたりします。現在のところ、一度障害された神経細胞を蘇らせ病気を根本的に治すことはできませんが、 「塩酸ドネペジル」で症状を改善し、進行を遅らせることが期待できます。 この薬には、脳の中で情報を伝える物質の減少を防ぐ作用があり、 その結果、障害されていない神経細胞が効率よく機能するようになって、障害された神経細胞の働きを補います。 一般に、半年〜1年ほど進行を遅らせる効果があるといわれています。 人によっては症状が改善され、その状態が維持されます。 レビー小体病の場合、幻覚が消えたり、症状の変動を小さくするなどの効果が認められています。

▼抗精神病薬
「幻覚」「妄想」を軽減したり、気持ちを落ち着かせて「徘徊」「興奮」を起こしにくくします。 ただし、「抗精神病薬」を使うと、転倒しやすくなったり、 唾液や食べ物を誤嚥して細菌が気管に入って起こる「誤嚥性肺炎」にかかりやすくなることもありますから、注意が必要です。

▼抗血小板薬
「脳血管性認知症」の場合は、脳梗塞など脳卒中が再発すると、認知症が急激に悪化します。 そこで「アスピリン」などの「抗血小板薬」で血液を固まりにくくし、脳卒中の再発を防ぎます。

●薬の副作用

高齢者の場合、副作用が出やすい傾向があるので、薬の使用開始から2週間は、特に副作用に注意してください。 認知症が進んでいて、患者さん自身が副作用を訴えられない場合は、周囲の人が気付くことが大切です。 例えば、吐き気をもよおして、食欲が低下するケースもあります。
薬は、本人に使う意思がある場合や、周囲の人が飲み忘れを防いだり、副作用のケアを行えたりする場合には使いますが、 薬を誤嚥するなどのリスクが生じたり、薬を飲ませるのに苦労する場合は、効果と副作用を比較して、 本当に必要な薬なのかを判断する必要があります。


●その他

「薬の副作用で認知症のような症状を起こす」場合には、医師に相談して、薬を中止する、量を調節する、 種類を替えるなどの対応を取れば、症状は治まります。 ただし、長い間放置していると、症状が進んで治療が難しくなる場合があるので、 早期に受診して、原因を突き止めることが大切です。