前頭側頭葉変性症

『前頭側頭葉変性症』では、万引きなどの反社会的な行動や、毎日決まった時間に同じ道順で歩いたり、 決まったものばかり食べるといった、同じことを繰り返し行うという特徴的な症状が現れます。 前頭側頭葉変性症は、早期から適切な介入を行うことで、長く自宅で暮らすことができます。 65歳未満で発症することが多く、ほぼ遺伝はしません。


■前頭側頭葉変性症とは?

65歳未満で発症することが多く、ほぼ遺伝はしない

認知症の原因となる「前頭側頭葉変性症」は、脳の「前頭葉」「側頭葉」が委縮し、 それによって特徴的な精神症状や言語症状が現れる病気です。この病気は、「前頭側頭型認知症」「意味性認知症」 「進行性非流暢性失語」という3つのタイプに分かれます。 前頭側頭葉変性症では、社会的存在としての抑制が利かなくなり、社会のルールが守れなくなったり、 他人の気持ちに対する配慮がなくなります。言葉の意味が失われるタイプの「失語」が現れることもあります。

前頭側頭葉変性症は、100年以上前に発見され、当初は「ピック症」と呼ばれていました。 脳の解析が進んだり、検査技術が進歩したことから、さまざまな病態の集合であることが分かってきており、 近年、その総称が前頭側頭葉変性症と定められました。前頭側頭葉変性症に含まれる病気の範囲については、 現在も専門家の間で議論が行われており、今後変更される可能性があります。

発症年齢は若く、65歳未満のことが多いのが特徴です。そのため、「初老期認知症」の重要な原因疾患であると 考えられています。日本人の場合は、遺伝性の病気ではなく、家族の中に同じ病気を持つ人がいるケースはほとんどありません。 有病率や患者数など、詳しいことはわかっていません。


■社会的な行動をとれなくなったり、同じ行動を繰り返す

前頭側頭葉変性症は、多くの場合、「アルツハイマー病」などと異なり、 記憶はある程度保たれています。しかし、次のような非常に特徴的な症状が現れます。

●”我が道を行く”ような行動をとる

前頭葉が委縮することで、前頭葉が担っていた抑制が外れ、他人の目を気にすることなくやりたいことをやる という行動が現れます。そのなかには、「万引き」のような反社会的行動も含まれます。 ただし、万引きをする場合でも、本人には悪いことをしているという意識はありません。 そのため、こっそり商品をとるのではなく、堂々ととるのが特徴です。 前頭側頭葉変性症に対する周囲の理解がないと、さまざまなトラブルを引き起こすことになります。

●同じ行動を繰り返す

「いつもディルームの決まった椅子に座る」「毎日同じ道順を歩く」 「決まったものばかり食べる」などの症状が現れます。 ほぼすべての患者さんに見られるもので、「常同行動」といいます。 同じ道順を歩き続ける人の中には、かなり長い距離を歩く人もいますが、 記憶や視空間の認知能力が保たれていることがほとんどなので、道に迷うことはありません。 そこがアルツハイマー病などで現れる「徘徊」とは異なるところです。 決まった時刻に、あるいは決まった曜日に、いつも同じ行動をとったりすることもあります。 このことを逆に利用して、日常生活に必要な行動を、常同行動にうまく組み込むことが、 介護の役に立つ場合もあります。

●言葉の意味が失われる

側頭葉が委縮することで、言葉の意味が失われるという症状が現れます。 右利きの人の場合、左側の脳が言語にかかわる中枢となるので、左側の側頭葉が委縮してくると、 言葉の意味が失われていくという現象が起こります。例えば、意味性認知症のある人に”鉛筆をとってください”と言うと、 ”エンピツってなんですか?”というように、その言葉が指す意味が分からなくなります。 そして、病気の進行に伴い、失われる言葉が増えていきます。 逆に、右側の側頭葉が委縮すると視覚性の意味が失われます。 例えば、配偶者の名前を聞くと自分との関係を答えられるのですが、 人ごみの中で配偶者の顔を見ても誰だかわからなくなります。 富士山のようにとても有名なものの写真を見ても、それが何だかわからないという現象も起こります。 このような症状以外にも、感情の動きが鈍くなり、無表情になったりすることがあります また、食欲が増加したり食べ物の好みが変わり、甘いものを多量に食べてしまうといったことも起こります


■神経細胞が変性するタイプのその他の認知症

神経細胞が変性する病気で、認知症の原因となるものとしては、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症 がよく挙げられます。しかし、「進行性格上性麻痺」と「大脳皮質基底核変化症」なども、 神経細胞が変性する病気で、認知症を来すことがあるります。 この2つの病気はどちらも「パーキンソニズム」が現れるため、「パーキンソン病関連疾患」に分類されています。


●進行性核上性麻痺

40歳以上の人に発症し、60歳代で発症が最も大になります。 歩行障害から始まり、進行すると認知障害機能も障害も現れます。症状は徐々に進行していきます。 病変は主に「大動脈疾患」「大脳基底核」と「脳幹」に起こります。 また、それに伴って前頭葉の神経脂肪に「神経現繊維変化」が起こります。 特徴的な症状には、「眼球が上下方向に動きにくくなる」「背中や首が棒のように固くなり動かせなくなる」 「転びやすくなる」ことなどが挙げられます。 転倒では、特に後方に転びやすくなります。また、認知機能が障害されて、物忘れが現れたり、 自己中心的な行動をしたりするようになります。 パーキンソニズムに対して薬を使うとともに、転倒に配慮した介護が行われます。


●大脳皮質基底核変性症

「大脳皮質」「大脳基底核」の両方が障害される病気です。 50〜70歳代に発症し、「失行」などの認知機能障害が現れ、症状は徐々に進行していきます。 パーキンソニズムは主に手足に起こり、左右差が大きいのが特徴です。 また、「うつ症状」が起こり、治療が必要になることもあります。 パーキンソニズムに対しては、パーキンソン病の治療薬などが用いられます。