認知症の介護『コミュニケーションにかかわる問題』


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■コミュニケーションにかかわる問題

●同じ質問を繰り返す

この行動の背景に多いのは、記憶障害による不安です。”何が気になって、同じ質問を繰り返しているのか” を理解するよう努めましょう。例えば、デイサービスに行く日なのかどうかが気になって、 「今日は何曜日?」と繰り返し訪ねているのだと分かれば、「今日は火曜日ですよ、デイサービスがある金曜日には、 朝、必ず声をかけますからね」と伝えることで、安心できるでしょう。

言葉によるコミュニケーション能力が低下して来たら、本人の顔つきや態度から、その気持ちを察してあげましょう。 怒っているときは、その思いを共感しながら、その原因や不安を排除し、喜んでいるときはともに分かち合います。 基本的には、本人が言うことを否定せずに理解し、根気良く、何度でも答えたり共感したりすることが大切です。


●もの盗られ妄想

「アルツハイマー病」の妄想の多くは、記憶障害による取り違えが原因です。 買い物に行こうと財布を持った時に電話が鳴り、箪笥の上に財布を置き、いざ出かけようといつもの財布の置き場所を見ると、 財布がありません。箪笥の上に置いたこと、そして、自分がものを忘れやすいことを忘れているため、 「盗られた」と勘違いしてしまいます。実は本人の中では悪意のない合理的な考えです。 ”老後はお金が頼り”という不安感も重なります。「一緒に捜してみようか」と声をかけてください 「あとでさがしておくからね。必要なときは、いつでも貸してあげるから」と声をかけ、 安心してもらうことも大切です。


●時間・場所が分からない

認知症の人は、新しく何かを覚えることが大変苦手です。そのため、長い間慣れ親しんだ生活のスケジュールや 生活環境が変わると、それについていけずに迷ってしまいます。端的なのが、施設に入所したり、 初めてショートステイを経験した時です。 現在の時間や場所が分からなくならないよう、できるだけ毎日、変わらぬリズムで生活できるようにしましょう。 急に生活環境が変わるときは工夫が必要です。引っ越すときは、家具の位置などは、これまで過ごしていたところと、 できるだけ似た環境にするとよいでしょう。また、”トイレはこちら”などと書いた紙を経路に貼るのも一案です。
入所する場合も、できれば、いつもそばにあって慣れ親しんでいたもの、例えば鏡台などを部屋に置くと安心できます。


●幻覚

認知症に伴う幻覚としては、「レビー小体型認知症」によくみられる幻視などがあります。 薬の副作用や「せん妄」などでも幻覚が生じることがあります。 幻覚と妄想は、実際にはないことがあるように思うという点では似ていますが、 幻視の場合、例えば「そこに知らない人がいる」と、今見えている(と感じている)ことを訴えます。 これに対して妄想では、「さっき、そこに知らない人がいた」と過去のこととして主張します。 幻視を訴えるときは、あえて、「そんな人いないよ」と否定するよりも、反対に「そうだね」と肯定することもせず、 客観的に思いを受け止めてあげてください。例えば、見知らぬ人がいるという幻視に怯えているようなら、 「私には見えないけれど、もしその人が襲ってくるようなら、絶対に守ってあげるからね」 などと伝えて、安心させましょう。


●徘徊

わけもなく外出しようとする、歩き回るように見える場合でも、「買い物に行きたい」「自宅の居心地が悪い」など、 それなりの理由がすることが少なくありません。ですから、まずは”どのような目的があるのか”を、よく聞きます。 夕方になるとそわそわして、「家に帰ります」といって出ていこうとする場合があり、「夕暮れ症候群」 などと呼ばれています。これはせん妄が背景にあることも多く、注意が必要です。 かたくなに「帰る」と主張するときは、「今日はもう遅いから、ここに泊って行ってください」と勧めて、 話を逸らすのも1つの方法です。また、ひとまず外に出て一緒に歩き、自宅に戻ってきたら、「さあ着きましたよ」 といいながら自宅に戻るのが有効な場合もあります。
本来なら最も安心できる場所であるはずの自宅を出ようとする背景には、自宅の居心地が必ずしも良くないことが考えられます。 家族間の人間関係や生活環境は、すべて満点というわけにはいきません。 何らかの不満が”帰りたい”という気持ちにつながっているのかもしれません。 本人の話をよく聞き、できるだけ居心地がよく、落ち着いて過ごせる環境を作ることで不安がなくなれば、 徘徊をしなくなるかもしれません。


●仮性作業

箪笥の引き出しの衣類を出しては畳んだり、ビニール袋を大量に集めたりするなどの、一見無意味に思われる作業を、 「仮性作業」といいます。部屋が散らかったりして、家族は迷惑だと思うかもしれません。 しかし、本人は何らかの目的を持ち、自分の役割を果たしていると考えて行っています。 特に害がない限りは、文句を言ったり、無理やりやめさせたりせず、続けてもらってよいと思います。 また、衣類を畳みたがる人には、洗濯物を畳んでもらうように頼むなど、その思い、その作業を生かしてあげる方法を 考えてみましょう。


●うつ症状

認知症では、高い頻度で「無気力」「意欲低下」を合併し、うつ症状とは区別して「アパシー」 と呼ばれます。認知症の初期に、自分が忘れっぽくなったことを自覚している場合、 自責の念や将来への不安で落ち込み、うつ状態に陥ることがあり、特に働き盛りの若い年齢で発症した認知症の人では 比較的高頻度に見られます。うつ症状であれば、「抗うつ薬」が有効ですが、アパシーとの区別が難しいことも多く、 診断の意味も含めて、抗うつ薬が使われることもあります。


●情緒不安定

急に怒り始めたり、急に泣き始めたり、感情が不安定になる情緒不安定の背景にも、強い不安感があります。 認知症の人は周囲の人とのコミュニケーションがうまくいかず、自分が思っていることや、 やりたいことがきちんと伝えられずに、どうしてもイライラします。 病気のために、自分の気持ちが抑えきれなくなっている場合もあります。 そのような時、「なんでそんなこともできないの」などと言われると、どうしても平静ではいられません。 症状が進み、言葉によるコミュニケーションが困難になってくると、説明が理解できず、不安が募ってきます。 相手の表情や態度、語気などに敏感になってきます。 しっかりと相手の顔を見て、その思いを感じながら、ほほえみを忘れず、ゆったりとしたペースで、 本人の状況に合わせたコミュニケーションで対応します。


●暴言・暴力

「情緒不安定」の項目で述べたとおり、認知症の人も、思ったようにコミュニケーションがとれないとイライラします。 そして、何かのきっかけで怒りが爆発して、暴言を吐いたり、暴力をふるってしまいます。 周囲の人の不用意な言葉や態度がきっかけとなっていることも多いので、 どのようなときに暴言・暴力に発展したか、よく思い出して、その対応の仕方を改善していきます。 暴力がひどい場合は、介護する人や本人のけがを回避するため、薬物治療が必要になることがあります。


●介護拒否

着替え、入浴、おむつ替えなど、身体に触れる介護をきっかけに怒りっぽくなり、 介護を拒否されることも少なくありません。これらの介護が必要になるころには、言葉によるコミュニケーションが困難となり、 介護する人への認識もあいまいになってきます。触れられることの意味が分からず、介護を拒否してしまいます。 声をかけ、笑顔で相手の顔を見て、安心してもらったうえで、ゆったりとしたペースで介護を進めるよう心がけます。